これから犬を飼う人に告ぐ!犬への愛は、苦労込みの愛だ。


今日はなんとしても
スーを獣医さんに連れていくつもりでした。
ワクチンのほかに
拾い食いのクセがあるので
検便もしてもらうつもりで
朝の散歩のあとブツを少量とっておいて
失礼なきよう、きれいにラッピングして
用意おさおさ怠りなし。


いざ、出陣となる夕方の散歩に際しては、
30分の余裕を見て
ゆったりと散歩を楽しみつつ
獣医さんのところへさりげなく誘導し、
何ごともないように、
これまたさりげなく扉を開ける作戦。


途中まではパーフェクト、
計画どおりです。


公園で仲良しの柴犬に会い、
あっけにとられて見つめる子どもたちを尻目に
野獣のように激しく遊び、
有り余るエネルギーもいい感じでダウン。
開院の5分前、「さあ、そろそろ行こうか」と
スーを誘導し、ルルルルンとふたりで病院前に到着。


ところがです。
ガラスの扉に手をかけた途端、
ぎょっとして固まるスー。
すべてを察したスー。
ガンとして動きません。
ナンしても中に入れようと引っ張る、わたし。
ナンとしても入るまいと引っ張るスー。
両者、一歩も引かぬモーレツな綱引き。


ハーネスからスーの胴体が…すぽん。


驚いて見つめ合う一人と一匹。


次の瞬間、道路を渡って
すたこらさっさと逃げ去る
見知らぬ犬のような後ろ姿が見えました。


やばーーーーーい!やばすぎる。
うちんちの犬、いま、逃げてますよ。奥さん!



あああ。
お年寄りがひょっこり出てきて
びっくり仰天し、転倒して大けがしたら?
小さな子どもがやってきて
恐怖のあまり「ぎゃー!」と叫んだら?
もし、その声にスーが興奮して追いかけたら??
スーが遠い山の向こうまで行ってしまって
迷子になって二度と戻らなかったら??
やばい、やばい。やばすぎる。


あわてて道路を渡るわたし。
なおも逃げるスー。


「わかった。スー。もう病院には行かないから」


小さくかがんで声をかけますが
「その言葉にはだまされねえ」とばかり、
寄せては返すを繰り返す、
にっくき犬、スー。
おぬし、許すまじ。


寄せては返すスーの向こうから
おじいさん、おばあさん、おばさん、おじさん、お姉さんが
ぞろぞろと寄せてきます。
こちらは寄せる一方。返していいのに寄せるばかり。
あああ。心臓が止まりそうだ。
どうか、何ごとも起こりませんように。


幸いに誰も避けようとも
逃げようともせず
ニコニコと笑いながら見ています。
おじいさんは、
「大変やなあ。グフフフフ」と
肩を揺らして笑いながらねぎらってくれました。
そんなこと言うならつかまえてくれよー。


元来、つきまとい犬のスーは、
わたしから離れないので
迷いに迷った素振りのわりには、
意外にあっけなく戻ってきて
しぶしぶハーネスに首を通し、
マジックテープを固定するまで
殊勝な顔でじっとしていました。


捕獲、終了。
みなさま、大変、お騒がせしました。


もはや飼い主のエネルギー、枯渇。
病院に戻る気力、なし。


犬を飼うということは、
苦労をしょいこむことだ。



SNSなどで犬との幸せな暮らしを発信している人は、
とても楽しそうに見えるけれど、
なにがしか、苦労しているに違いない。
いや、必ずしている。
わたしゃ、断言するね。


犬への愛は、苦労込みの愛だ。



家に戻ってわたし、
トイレで一瞬、泣きましたよ。
「んも゛ーーー。なんで何もかも、うまくいかん!!??」と。


しばらくじっと座って
おもむろにパンツをあげて
ジーパンをあげて
トイレを出ると
キッチンのドアのすき間から
様子をうかがっていたスーが、
中途半端に尻尾をふってやってきて
鼻先で脚をつつきました。


「もう、あんたなんか知らん」と言いつつ
ついいつもの癖で頭をなでるわたし。
仲直りのキスをする恋人同士か!?


数か月前のレントゲンがよほど怖かったのでしょうね。
可哀そうなことをしました。対策を考えなくちゃ。
綺麗にラッピングしたブツは
そのあと、わたし一人で持っていき、
検査してもらいました。
健康そのものだそうで何より。


明日もあさっても
犬とわたしのすったもんだは続くんでしょうなあ。
それでも、好きだ、スー。


スーの写真は、
ツイッターのカバーにしています。
わが犬ながら可愛い。



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新聞連載には書かなかった、愛しさと同じくらいの重圧。


いま、各地の新聞に掲載されている連載は、
一生懸命かつ正直に書きましたが、
ひとつだけ、触れていないことがあります。


それは、犬。


夫が倒れた当時、生後10か月だった雑種犬スーのことです。


救急搬送された病院の待合室に
警備員のおじさんとふたりポツンと離れて座っているとき
近所のママ友に電話して
「ごめん!スーが吠えまくってないか確認して!」と頼んだこと。


夫の手術が終わり、
明け方に家に戻ったとき、
タクシーが着くやいなや
「スー。待ってろよ!帰ってきたよ!!」と
声には出さないものの、叫ぶようにして
階段を駆け上がったこと。


リビングの扉を少し噛み壊して
じっと静かに我慢していたスーに
「ごめん、ごめん」と
どっちが犬か人間かわからないぐらい
とりすがったこと。


その後、ひとりと1匹で1時間ほど横になり、
起きてすぐに散歩に行ったこと。


ちょうど同じころ、
深夜バスで到着したお義兄さんに
「家で待っていてください。
散歩してきますから」と言い残して
1時間ほど待たせたこと。



ずっと、犬のことばっかり考えてる!



そんなことでいいのか!?と思うものの、
わたしは、わたしが病気になったときも
犬のことを一番に気にすると思うのです。


明日のごはん、どうする?
この何日か、誰に頼む?
散歩はどうする?
あ゛あ゛あ゛ーーーーーー!


「スーちゃんがいてよかったね」
「スー、癒しになるでしょう」と
みんなが言ってくれて
実際、そのとおりなんですが、
今日も朝、散歩をしながら
匂い嗅ぎに精を出す
スーのお尻のあたりを見つつ、


スーはいま、1歳半。
1日に2回散歩し、
およそ15年生きるとして
わたしは、いったい、何回散歩することになるのだろうか??


いやだ、こわい!考えたくない!


・・・と首をブルブル左右に振って
寄ってくる蚊といしょに
おそろしさを振り払いました。
そう。愛しさと同じくらいに
ズシリとのしかかる重い責任でもあるのです。


わたしはいま、57歳。
超高齢化社会の現代においては、
57歳なんてひよっこ。
これからどーーんどんチャレンジして
おしゃれもして、ひと花もふた花も咲かせて
キラキラと輝きながら総活躍時代を生きる方が多いでしょうが、


わたしの目下の最大のテーマは、


スーが死ぬまで元気でいる。
病気も、ケガもしない。



もっとはっきり言うと


夫と犬をちゃんと看取る。



夢も希望もないようですが、
「元気でいなければならない理由」としては
かなり切実な部類に入るでしょう。


目標:健康と健脚


なんてことを書いているけれど
15年前の自分の状況と
いまの自分の状況はまったく異なるから、
甘くみちゃいけませんね。
それもわかってる。



わたしを例にとっても
「7歳の子どものいる仲良しファミリー、犬を飼う(先代の犬)」
から
「夫が寝たきりとなった妻、これから一人で犬を飼う」
になってるもん!!!この15年で!!!



ふんどしのかわりに
犬のリードをしっかりと握り直し、
健康と健脚に気をつけて生きよう。


それにしても、ずっと犬がいるな。
これもまた、30代後半までは想像もしなかった未来。



夫の発病から今日までのことを書いた新聞連載「献身と保身のはざまで」
現在、熊本日日・岐阜・山陰中央新報・四国・茨城・秋田魁新報・山陽・埼玉・愛媛・神戸・徳島・北日本・岩手日報の各新聞で掲載されています。
お住まいの地域のみなさま、よかったらお読みください。


  詳細や経緯はこちらの記事をご覧ください。

似た境遇の人はもちろん、さまざまな責任を負いながら奮闘する同世代の女性に伝わるようにと願いながら書いています。お住まいの地域の方、読んでもらえたらうれしいです。




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