人は、誰にもわからない瞬間に決定的な体験をし、覚悟を決める。


今週の火曜日、夫はパラダイス病院(仮名)から転院しました。


リゾートホテル風の大きな自動ドアが開き、
白い寝具にくるまってストレッチャーにベルトで固定された夫が
運転手さんと付き添いの看護師さんによって
手際よく外に運ばれる様子は、
「事故現場で発見された遺体」のようでした。


わたしは、「退院おめでとうございます!」と
カラフルなペンで書かれた色紙と
着替えやらクッションやら枕やら、タオルやらCDプレーヤーやらの入った
3つの大きなバッグを肩や手にぶら下げたまま、
明るい空のもとに運ばれる、
微動だにしないストレッチャー上の「白い膨らみ」を見つめながら
「出棺に立ちあっている」と心のなかでつぶやき、
あわてて後を追って外に出ました。


ごく短い時間に
わたしは、一生忘れないであろう「弔い」を行い、
そのときの風景をスキャンするように
眼のなかに収めたのです。
病院の日常的な賑わいのなか、
私だけが知る、
夫と私の輝かしい生命の時間に別れを告げ、
新しい現実へ踏み出す覚悟を決めた瞬間でした。


人は、だれにもわからない瞬間に
だれにもわからないかたちで
だれにも聞こえない心の声で
人生を左右する決定的な体験をし、
覚悟を決めるのだ。



数日たち、あの瞬間を振り返って
そう感じています。


新しい病院で
新しい医療スタッフのみなさんとの
関係づくりがスタートしました。


わたしは、一人で背負い込むのでなく
病院の専門家たちとともに
できる範囲でケアする道を選びました。


「自分たちだけで看るのでなく、
すべてを病院任せにするのでもない。
いっしょに看ていく」という病院の方針を信頼し、
あらゆる葛藤を引き受けて
落ち込んだり、自分を責めたりしながら、
夫の盾として、通訳として
そしてパートナーとして
新しい現実を生きていこうと思っています。


【お知らせ】 
新聞連載「献身と保身のはざまで」が始まります。


夫の発病から今日までのことを新聞に連載することとなりました。ずっとブログを読んでくださっていた共同通信社の方が企画くださり、全国の地方紙に15回にわたって掲載されます。

  詳細はこちらの記事をご覧ください。

似た境遇の人はもちろん、さまざまな責任を負いながら奮闘する同世代の女性に伝わるようにと願いながら書いています。お住まいの地域の新聞で見かけたら、ぜひ、お読みください。




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「どの家もどの人も一筋縄でいかない面白さ」に励まされる。


夫の転院した病院までの道のりが、楽しいのです。


駅の階段を上がったとたんに、
昔ながらの音漏れするパチンコ屋さんから
熟年カップルが腕を組んで
しなだれあうようにして出てくる。
その若者みたいな愛表現と
くずれたルックスにグッときます。
いいじゃないか、愛だ。愛と欲望のかたちだ。


さらに、
こんなところにこんな有名な老舗が!と驚く和菓子屋さん。
肉の値段を1グラム単位で表記している
ちょい飲みのできる高級和牛屋さん。
昔のちり紙交換みたいなアナウンスを流しっぱなしにしている
お店の奥で焼いているパン屋さん。
ちょっとびっくりするほど奥行きのある
油断するとさびれそうなところを
ぎりぎりで賑わいを保っている大きな市場。


ちょっと路地を歩けば
ビリヤード屋さんやら
店主の個性が細部までにじんだ喫茶店やら
自分は決して行かないけど街に一軒はあってほしいパーマ屋さんやら。


これまた昔ながらの文化住宅では、
どの家もよく手入れされた鉢植えを
所せましと並べていて
「そうか。『長いひとつの玄関』を共有している感覚だな。
花の手入れをするカルチャーは、
競い合うように伝染することで保たれるんだな」
とひとりしきりに納得。


ある角のごみ収集場所あたりが
またすごいんです。


「時間どおりに捨てる」
「他エリアの者は捨てるな」
「ここで犬に糞をさせるな」
「常識あるならゴミを捨てるな」
「タバコの吸い殻を捨てるな」


など主にごみ関連の張り紙が
几帳面な字で
真四角な紙に書かれて
あちこちに貼られています。


その熱意に圧倒されながら歩くと、
ブロック塀の上に何十本もペットボトルを並べて
「猫、一歩たりとも近づけまじ」という炎のような気迫を感じる家があり、
「おお。『張り紙書家』は、ここのおうちの人に違いない」と
ひれ伏すような気持ちになる。
もう、道すがら、観察することが多くて忙しいです。


張り紙書家の字が、
わたしと同年齢じゃないかと感じる
かすかに丸みを帯びていることにもしみじみするんですよえね。
縦書きに慣れた「ザ・お年寄りの字」じゃないんだもん。
嗚呼。同世代が少しずつ暇になって、小うるさくなって、
ゴミの番人として、
張り紙書家として
むやみに張り切る時代になってきたんだなーーー。


どの店もどの家もどの人も一筋縄でいかない感じ。



公のルールを守りながらも
鉢植えが道路にはみ出る程度の主張と抜け道は確保し、
たくましく、他人に小うるさく、
愛想はいいが、小さな利にさとい。


だからこそ、まちは雑多でありながらも整って美しく
人々が人々を見守る眼もあり、
あちこちで個人経営の店がなりたち、
そこここで世間話に華が咲いているのです。
これってつまり「豊か」ってことじゃない??


「いい人」でも「悪い人」でもある個人が
長年かけて築いてきた習慣から生まれる
雑多な主張や個性が混じりあうと面白いものになるぞ。
そのエネルギーってすごいぞ。あなどれんぞ。


・・・と毎度毎度励まされます。
わたしも雑多な気持ちのまま生きよう。


路地の奥に「美肌!」と書かれた小さな銭湯も見つけました。
いつか、ひと風呂浴びて帰ろう。


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これから犬を飼う人に告ぐ!犬への愛は、苦労込みの愛だ。


今日はなんとしても
スーを獣医さんに連れていくつもりでした。
ワクチンのほかに
拾い食いのクセがあるので
検便もしてもらうつもりで
朝の散歩のあとブツを少量とっておいて
失礼なきよう、きれいにラッピングして
用意おさおさ怠りなし。


いざ、出陣となる夕方の散歩に際しては、
30分の余裕を見て
ゆったりと散歩を楽しみつつ
獣医さんのところへさりげなく誘導し、
何ごともないように、
これまたさりげなく扉を開ける作戦。


途中まではパーフェクト、
計画どおりです。


公園で仲良しの柴犬に会い、
あっけにとられて見つめる子どもたちを尻目に
野獣のように激しく遊び、
有り余るエネルギーもいい感じでダウン。
開院の5分前、「さあ、そろそろ行こうか」と
スーを誘導し、ルルルルンとふたりで病院前に到着。


ところがです。
ガラスの扉に手をかけた途端、
ぎょっとして固まるスー。
すべてを察したスー。
ガンとして動きません。
ナンしても中に入れようと引っ張る、わたし。
ナンとしても入るまいと引っ張るスー。
両者、一歩も引かぬモーレツな綱引き。


ハーネスからスーの胴体が…すぽん。


驚いて見つめ合う一人と一匹。


次の瞬間、道路を渡って
すたこらさっさと逃げ去る
見知らぬ犬のような後ろ姿が見えました。


やばーーーーーい!やばすぎる。
うちんちの犬、いま、逃げてますよ。奥さん!



あああ。
お年寄りがひょっこり出てきて
びっくり仰天し、転倒して大けがしたら?
小さな子どもがやってきて
恐怖のあまり「ぎゃー!」と叫んだら?
もし、その声にスーが興奮して追いかけたら??
スーが遠い山の向こうまで行ってしまって
迷子になって二度と戻らなかったら??
やばい、やばい。やばすぎる。


あわてて道路を渡るわたし。
なおも逃げるスー。


「わかった。スー。もう病院には行かないから」


小さくかがんで声をかけますが
「その言葉にはだまされねえ」とばかり、
寄せては返すを繰り返す、
にっくき犬、スー。
おぬし、許すまじ。


寄せては返すスーの向こうから
おじいさん、おばあさん、おばさん、おじさん、お姉さんが
ぞろぞろと寄せてきます。
こちらは寄せる一方。返していいのに寄せるばかり。
あああ。心臓が止まりそうだ。
どうか、何ごとも起こりませんように。


幸いに誰も避けようとも
逃げようともせず
ニコニコと笑いながら見ています。
おじいさんは、
「大変やなあ。グフフフフ」と
肩を揺らして笑いながらねぎらってくれました。
そんなこと言うならつかまえてくれよー。


元来、つきまとい犬のスーは、
わたしから離れないので
迷いに迷った素振りのわりには、
意外にあっけなく戻ってきて
しぶしぶハーネスに首を通し、
マジックテープを固定するまで
殊勝な顔でじっとしていました。


捕獲、終了。
みなさま、大変、お騒がせしました。


もはや飼い主のエネルギー、枯渇。
病院に戻る気力、なし。


犬を飼うということは、
苦労をしょいこむことだ。



SNSなどで犬との幸せな暮らしを発信している人は、
とても楽しそうに見えるけれど、
なにがしか、苦労しているに違いない。
いや、必ずしている。
わたしゃ、断言するね。


犬への愛は、苦労込みの愛だ。



家に戻ってわたし、
トイレで一瞬、泣きましたよ。
「んも゛ーーー。なんで何もかも、うまくいかん!!??」と。


しばらくじっと座って
おもむろにパンツをあげて
ジーパンをあげて
トイレを出ると
キッチンのドアのすき間から
様子をうかがっていたスーが、
中途半端に尻尾をふってやってきて
鼻先で脚をつつきました。


「もう、あんたなんか知らん」と言いつつ
ついいつもの癖で頭をなでるわたし。
仲直りのキスをする恋人同士か!?


数か月前のレントゲンがよほど怖かったのでしょうね。
可哀そうなことをしました。対策を考えなくちゃ。
綺麗にラッピングしたブツは
そのあと、わたし一人で持っていき、
検査してもらいました。
健康そのものだそうで何より。


明日もあさっても
犬とわたしのすったもんだは続くんでしょうなあ。
それでも、好きだ、スー。


スーの写真は、
ツイッターのカバーにしています。
わが犬ながら可愛い。



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「わかっている」と「感謝」は別物。遠い距離がある。


月に二度ほど、お義母さんが電話をかけてきます。


いつもだいたい、夫の様子を聞き、
あれこれと心配なことを尋ね、
それらが一段落したところで
モニョモニョと「あなたに世話に…」
「あなたに無理…」という言葉が入り、
それから自分の体調を憂えたり、
かつての苦労話に移行したりして
なんとなく挨拶をして電話を切るというパターン。


もう、85歳だし、
息子が倒れてしまったし、
その心中察して余りあるので
何も言うつもりはないけれど
…と言いつつ、ここに書く。


「私」という人間の扱いが中途半端なんだ。


私を思いやっているらしい言葉が挿入されるのは、
いつも会話の中間あたり。
語尾まで言わず、うやむやに、
なんとなく、モニョモニョと物憂げな口調。
毎度、消化不良。
たまには開口一番、爽やかに
「いつもお疲れ様!」と言えんかな。


夫もわたしも実家を離れて暮らす
お気楽な立場だったので
お義母さんと接することも少なかったけれど、
兄嫁の苦労が、いま、痛いほどわかります。
そういえば、何度も言っていたな。
「『ありがとう』と言われたことは一度もない」と。
お義母さん、それ、ダメだから!


時折、テレビ番組で
奥さんに「ありがとう」と
言ったことのない不愛想なダンナさんが、
「あいつには苦労をかけて」とか
「あいつには世話になって」なんて
テレビカメラの前で口にして
「お父さんも本当は感謝していたんです。
でも口下手で言えなかったんです。
不器用な日本男子なんです!」
なんてナレーションが入ったりしますが、


「苦労をかけた」「世話になった」と思うことと
「感謝する」ことはイコールじゃないですから。


苦労をかけたことに忸怩たる思いでいる、
ことだってあるし、
世話になったが、世話になったと言いたくない、
ことだってある。


不本意ながら
世話になった事実を事実として
認識はしているが
そのことに素直に感謝できない。
「ありがとう」と言うことが
敗北宣言のような
プライドが許さないような
そんな感覚の人もいるのです。


「(世話になったと)わかっている」ことと
「ありがとう」と口にすることは、
近いようで、実はものすごく遠い。



「ありがとう」という言葉だけが
明確な感謝を相手に渡すことができ
相手の心を動かすことができるのです。


あとのモニョモニョ発言は、
聞き手が歩み寄って
「多少は感謝しているんだろう」
と好意的に理解するだけです。


ありがとう、を言おう。
年をとればとるほど言おう。
日常的にも、
ここぞ!というときにも
ケチらず、出し惜しみせず、
心の底から「ありがとう」を言おう。


「ありがとう」は
年齢差を飛び越えて
あらゆる人の心を動かし
時に魅了することさえできる
コミュニケーションの要だ。



お義母さん!
今からでも遅くない。練習あるのみ!
記憶力抜群、頭冴え冴えなんだから!
わたしも、年寄り扱いせず、
「お義母さん、そこは、『ありがとう』と言うところですよ」と
教えてあげましょう。感謝してくれよ。



夫の発病から今日までのことを書いた新聞連載「献身と保身のはざまで」、
現在、熊本日日新聞と岐阜新聞で連載がスタートしています。


  詳細や経緯はこちらの記事をご覧ください。

似た境遇の人はもちろん、さまざまな責任を負いながら奮闘する同世代の女性に伝わるようにと願いながら書いています。お住まいの地域の方、読んでもらえたらうれしいです。




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