不器用ゆえに重ねる逃避と その逃避が作っていく道筋。


夫があるメールを転送してきました。


ふたりともよく知る大学の先輩ミツオさんからのメールでした。


やけに明るく軽い文章で
会社をたたんで自己破産をすること、
そのためのお金がないこと、
頼れる家族がいないことが書かれていて
「ひとり1万円ずつカンパしてくれるよう
そのとりまとめをしてくれないか」とありました。
必要金額は、100万から150万であると。


初見では、よくわからない文章だなあ、と思いました。
「借金の申し込み」ではなく、
「カンパのとりまとめ」のお願いだからです。
わたしは、こういうときに限りませんが、
すぐに判断ができなくて
ぼんやりしてしまいます。
ぼんやりしたまま、釈然としないものを感じていました。


ミツオさんは、わたしにとって一時期、「社長」でした。
彼の会社でアルバイトをしていたからです。


口数の少ない、まじめな、気難しい人でした。
耳が少し悪くて話が聞き取りづらいことがあり、
それが、無口さにつながっていたと思います。
本人は決して耳のことは言いませんでしたし、
わたしたちも言いませんでした。
よく取材に行っていましたが、
インタビューはつらかったと思います。



質素で倹約家で奥さんがお弁当に入れた「ニラ玉」を
ごはんを食べて帰ってきたわたしに「食べて」とくれました。
小さなホイルに入ったクタっとしたニラ玉を
「ありがとうございます」と言って受け取ったものの
給湯室で一礼してティッシュに何重にもくるんで
捨ててしまったのを覚えています。


バブルのころ、わたしを含め数人のスタッフを連れて
当時、大阪で一番格式の高かったロイヤルホテルの
フレンチレストランに連れていってくれました。
社長自身は、コース料理が好きじゃないようで
ビールやワインばかり飲んでニコニコとニヤニヤの間ぐらいの顔をしていました。
下品なところなどみじんもない人でしたが
いつもどこか「子どものころの貧しさ」を思わせる人でした。
経済的な面だけでなく、愛情の面でも。


彼はバリバリのやり手を好みませんでした。
バリバリのやり手は早口だから
聞き取れなくてイヤだったのかも。


そのせいか、小さな会社には、
「顎関節症で口が開かない」を理由に
ビールばかり飲んでいるアルコール依存症のデザイナーや
口ではすごいことを言うけど
いざというとあきれるぐらい何もできないプランナーや
びっくりするほど仕事の遅い、「駄菓子屋のおじいさん」みたいなデザイナー、
そして
劇団やってる、ずる休みばかりするコピーライターの
若いわたしがいたのです。


もう20年以上会っていませんが、
当時のミツさんを思い返しても
放埓なところ、無責任なところは見当たりません。


ただ、不器用だった。


会社にも「あまり役に立たなそうな面子」を集めたように
奥さんも精神的に弱く、
家にこもりがちな人で
ミツさんは、あきらめと不満と情愛の混じり合ったような口調で
誰に対しても「さゆちゃんが…」と奥さんのことを語っていました。


そういえば、よく吠えるシェルティを飼っていて
奥さんと会社にやってきたな。
あのころは、テニスもしていたんだ。


こうやってひとつ、ひとつ記憶をたどれば、
「もっと、なんとかできたんじゃないか」と思わないでもないですが、
「一円もない」というほどに徹底して何も築いてこなかった背景には、
家族をつくることへの抵抗感や
幸福をイメージできない何かが
強く影響しているんじゃないかと思います。
本人に聞いたわけじゃない。単なる推測ですが。
ミツさんは家も買わず、子どももつくりませんでした。
奥さんのお母さんと同居し、最期を看取っています。


不器用なこと。
年をとったこと。


ミツさんの窮状の原因は、
このふたつだと思いました。


怠惰でも、浪費でも、博打でもない。
ただ、不器用であること。


不器用ゆえに重ねる逃避と
その逃避が作っていく
無計画でしかいられないという道筋。



ミツさんの「カンパのお願い」というメールも
不器用と逃避の塊にほかならず、
わたしは、釈然としない思いから、
「なんで、こんなメールで頼むんだよ!?」という
やるせない気持ちに変わっていきました。


思ったより長くなりました。
ミツさんのこと、自分のこと、
もう少し書きたいので続きは次回に。





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コメント

つづきを読みにきたけど、まだでした。カリーナさんの表現がうまいだけにしみます。
いい歳をした男の人の脆弱なところは、かなしくなるから見ないで済めば見たくないかなぁ。
みっともなくていいし、人に弱さを見せられるのは強さだと思うけれど。

  • 2018/09/01 (Sat) 05:42
  • あ き ら #dI6DO0LA
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